涼しい瞳を動かしたが

2012 年 5 月 27 日

 涼しい瞳を動かしたが、中折の帽の庇の下から透して見た趣で、
「あれをちっとばかりくれないか。」と言ってまた面を背けた。
 深切な婆々は、膝のあたりに手を組んで、客の前に屈めていた腰を伸して、指された章魚を見上げ、
「旦那様、召上りますのでござりますか。」
「ああ、そして、もう酒は沢山だから、お飯にしよう。」
「はいはい、……」
 身を起して背向になったが、庖丁を取出すでもなく、縁台の彼方の三畳ばかりの住居へ戻って、薄い座蒲団の傍に、散ばったように差置いた、煙草の箱と長煙管。
 片手でちょっと衣紋を直して、さて立ちながら一服吸いつけ、
「且那え。」
「何だ。」
「もう、お無駄でござりまするからお止しなさりまし、第一あれは余り新しゅうないのでござります。それにお見受け申しました処、そうやって御酒もお食りなさりませず、滅多に箸をお着けなさりません。何ぞ御都合がおありなさりまして、私どもにお休み遊ばします。時刻が経ちまするので、ただ居てはと思召して、婆々に御馳走にあなた様、いろいろなものをお取り下さりますように存じます、ほほほほほ。」
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